円形脱毛症とは?発症しやすい年齢と基本的な症状
円形脱毛症(えんけいだつもうしょう、alopecia areata)は、突然直径数cm程度のコイン状の脱毛が起こる代表的な脱毛症で、全年齢で発症しますが、10〜40代の若い世代に多くみられます。頭の髪に出ることがほとんどですが、眉毛・ひげ・体毛など全身に起こることがあり、数カ月~半年で自然に治る例もある一方で再発しやすい疾患として知られています。また全身広がることもあります。「放っておいても大丈夫?」とご不安な方も多いと思いますが、適切な診断と治療で改善を目指せます。
円形脱毛症の原因

円形脱毛症を発症するメカニズムはまだ完全に解明されていませんが、髪の毛を作り育てる過程で大切な役割を果たす毛の構造(毛包組織)に対する「自己免疫疾患」と考えられています。
自己免疫疾患とは、普段はウイルスや細菌など外からの異物と戦う免疫が、自分の体内の毛包組織を攻撃してしまい脱毛になってしまうということです。
毛の構造に関わる遺伝子の個人差を背景にして、疲労や感染症など肉体的、精神的ストレスが引き金となるとされますが、実際には明らかな誘因がないことも多いとわかっています。精神的ストレスが円形脱毛症の直接の原因になるかは未だ科学的根拠が足りないとされています。
円形脱毛症は男女差や年齢層を問わず、幅広い人に発症する疾患ですが、円形脱毛症患者の8.4%に家族内発症があり、患者との関係が近いほど発症率が高い傾向があると言われています。また一卵性双生児での円形脱毛症の一致率は55%と言われており、遺伝子的な背景も関係していると言われています。
アトピー性疾患との合併率も高く、患者やその家族にアトピー素因が確認されており、円形脱毛症とアトピー素因は関連性が高いと考えられています。
皮膚を一部採取し病理学的検査で髪の毛の構造を観察すると、毛包の周囲に免疫反応を起こすリンパ球という免疫を担当する細胞が集まっていることが確認できます。
円形脱毛症の正しい診断方法
円形脱毛症では自覚症状として初期や症状悪化時に軽いかゆみやチクチク感、違和感、淡い赤みがでることがあります。
診察では、以下の所見が症状を見極めるポイントになります。
■ ダーモスコピー・トリコスコピー(拡大鏡)で見られる特徴的な所見

- 感嘆符毛(かんたんふもう、exclamation hairs):炎症が強い時期にみられる
- 漸減毛(ぜんげんもう):炎症が強い時期にみられる
- 黒点(こくてん、black dots):炎症が強い時期にみられる
- 黄色点(おうしょくてん、yellow dots):炎症が落ち着いてきた時期にみられる
これらは炎症の強さ・進行度合いを知る重要なサインで、治療方針の判断に役立ちます。
■ その他の診断のポイント
- 牽引試験(ヘアプルテスト、hair pull test):急速に進行している場合には、髪を軽く引っ張るだけで抜ける
- 爪の点状陥凹:発症時や症状が再び悪くなった時期に一致して横一列線状に並ぶこともあり
- 鑑別が難しい場合:血液検査・皮膚生検で確認することもあります
自己診断は危険!似た症状の脱毛症との鑑別
注意しなければいけないのは円形脱毛症に似たような脱毛になる病気はたくさんあります。それぞれ治療が異なりますので、診断がとても大切です。
- 皮膚エリテマトーデス(膠原病)
- 限局性強皮症(げんきょくせいきょうひしょう)
- 毛孔性扁平苔癬(もうこうせいへんぺいたいせん)
- トリコチロマニア(抜毛症)
- 男性型脱毛(AGA)・女性型脱毛(FPHL)
- 休止期脱毛症
- 頭部白癬(カビの感染)
- 梅毒による脱毛
円形脱毛症の5つのタイプと進行度
円形脱毛症と聞くと「コイン状」に一部分が抜けるイメージをお持ちの方も少なくありません。しかし、実際はさまざまな種類があり、大きく分けて以下の5種類に分類されます。

単発型:最も多いコイン状の脱毛
円形脱毛症のタイプでもっとも多い単発型は、丸いコイン状や、楕円形の脱毛が一つだけ発生するタイプです。このタイプを発症する方が一番多く、症状が進行すると数が増えて多発型になる場合があります。サイズや、発症する箇所は人によって異なります。
多発型:複数の脱毛斑が見られるケース
丸いコイン状や、楕円形の脱毛が複数発生するタイプです。初期から複数の脱毛が認められる場合と、単発型が進行することで、多発型に移行するケースがあります。また、複数の脱毛斑がつながって、1つの大きな脱毛斑になるケースもあります。適切な治療を行っても、治療には半年から2年くらいかかる場合が多いと言われています。
全頭型(ぜんとうがた):頭髪のほとんどが抜ける重度のタイプ
脱毛が広範囲に広がり、頭髪のほとんどが抜けてしまうタイプです。改善には治療が長期におよぶ場合が多いとされており、そのため治療と並行してウィッグなどを使用しながら日常生活を送っている方も少なくありません。
汎発型(はんぱつがた):全身の毛が抜け落ちる最も重度なタイプ
毛髪だけではなく、まゆげやまつげ、体毛まで、すべての毛が抜け落ちるタイプです。全身型は、円形脱毛症の中では最も重度なタイプと考えられています。
蛇行型(ophiasis:オフィアシス型):生え際に沿って帯状に広がる難治性のタイプ
側頭部から後頭部の生え際にかけて、帯状に細長く脱毛するタイプです。治療期間は数年にわたるケースがあり、治療が難しいタイプになります。
円形脱毛症の治療方法
円形脱毛症の治療では、患者様の状態が「抜け始めで急速に進行する急性期」にあるか「症状の進行が落ち着いた症状固定期」にあるかを判断することが極めて重要です。

1. ステロイド外用薬(塗り薬):自宅でできる基本的な治療
脱毛の原因になっている皮膚の炎症を抑える治療になります。ご自宅でできる治療でもありまず開始させて頂く治療になります。頭ですのでローションタイプのステロイドのお薬を出すことが多くなります。
2. ステロイド局所注射:高い効果が期待できる治療
ステロイドを直接炎症の起こっている毛包に注射で届ける方法となります。効果が比較的高い治療になりますが、注射なので多少の痛みがあります。月1回ほどの注射を続けることをおすすめしています。
3. エキシマライト(紫外線治療):保険適用の光線療法
308nmという波長の紫外線を当てることで、皮膚の免疫を調節し円形脱毛症の炎症を抑え発毛させることができます。週1で通って頂き治療を行っていきます。保険適用の治療になり、当院でも扱っております。
4. 局所免疫療法:難治性タイプに対する第一選択肢
皮膚にかぶれを起こすようなSADBEやDPCPというお薬を使い、皮膚の免疫を調節し発毛させる治療になります。ガイドラインにて多発型、全頭型、汎発型の症例に、年齢を問わず第一選択肢として行うようすすめられています。かぶれ症状が大変強くでてしまうこともありますので、アトピー性皮膚炎など湿疹が出やすい方には注意が必要になります。
5. ステロイドの全身投与(点滴・内服):重度・急速進行型への治療
範囲が広く、脱毛の勢いの強い方にはステロイドの点滴や飲み薬の治療を行うことがあります。特にステロイドの点滴はパルス療法といい、通常3日連続で点滴することが多く大学病院や総合病院で入院の上、行うことが一般的な治療になります。
6. JAK阻害薬(オルミエント、リットフローなど):広範囲脱毛への新たな選択肢
JAK阻害薬というタイプのお薬で、円形脱毛症の炎症を起こしているサイトカインというタンパク質を抑え発毛させるお薬になります。もともとアトピー性皮膚炎で保険適用の飲み薬でしたが、円形脱毛症にも保険適応になり広範囲が脱毛になってしまった患者様にも効果が期待できる治療となります。感染症にかかりやすくなるなど注意点もありますので、総合病院や大学病院で治療することが多い飲み薬になります。
7. ミノキシジルの外用・内服・局所注射:自費治療
ミノキシジルは男性型脱毛症(AGA:Androgenetic Alopecia)や女性型脱毛症(FPHL:Female Pattern Hair Loss)で使われるお薬で、毛根の血流を促進し発毛を促します。円形脱毛症でもミノキシジルの効果が多数報告されており、他の治療の併用療法として行います。塗り薬、飲み薬、局所注射がありますが、基本的には塗り薬を円形脱毛症では使用します。
円形脱毛症は、いろいろな治療の選択肢があり、脱毛の範囲や勢い、今どのような時期にあるかで治療の判断をします。私自身も頭皮やひげの円形脱毛症になってしまった経験があります。患者様に合った治療を提案しますので当院にお気軽にご相談ください。
【治療のポイント】急性期と症状固定期の見分け方
急性期というのは抜け始めということで、脱毛に気がついてから急速に脱毛の拡大が進む時期のことであり、牽引試験(pull test)をすると髪が抜けやすく、ダーモスコピーで観察すると感嘆符毛、漸減毛、黒点が多数見られ炎症が強い時期です。
症状固定期は脱毛症状がおおよそ半年を超えた頃です。この時期はまだまだ脱毛の原因となっている炎症が強い状況が続く方と、炎症が収まってきた方に分かれます。ダーモスコピーで観察することでおおよそ見分けることができます。
予後(髪が生える時期)について
円形脱毛症がいつ治るのか、どのくらい治るのかについては様々なデータがあります。1つだけの脱毛(単発型)では40%が半年以内に、80%が1年以内に回復すると報告されています(PMID: 5864736)。また複数の脱毛がみられる多発型は 27%で 1年以内に治癒するとの報告があります(PMID: 30411329)。円形脱毛症の14~25%は全頭型や汎発型へ移行し、その場合には回復率は 10%以下と考えられています(PMID: 22524397)。
当院の円形脱毛症治療について(まとめ)
円形脱毛症の治療には、今回ご紹介したように多様な選択肢があり、脱毛の範囲、勢い、現在の病態(急性期/症状固定期)を見極めた上で最適な治療法を選択します。
院長自身も円形脱毛症の経験があるため、患者様の身体的・精神的なご負担を理解した上で、寄り添った治療をご提案させていただきます。
適切な診断と治療の開始が早期改善への第一歩です。「もしかして?」と感じたら、一人で悩まずに当院にまずはお気軽にご相談ください。
参考文献
- 日本皮膚科学会 円形脱毛症診療ガイドライン 2024(PDFが開きます)
- J Dermatol. 2023 Jan;50(1):37-45. PMID: 36321512.
- Nature. 2010 Jul 1;466(7302):113-7. PMID: 20596022.
- J Am Acad Dermatol. 2012 Dec;67(6):1163-73. PMID: 23006662
- Dermatologica. 1965;131(6):421-45. PMID: 5864736.
- Australas J Dermatol. 2019 May;60(2):163-170. PMID: 30411329.
- Br J Dermatol. 2012 May;166(5):916-26. PMID: 22524397.



