
汗が多くて気になる、服に汗ジミができる、人前で手汗が気になる——このようなお悩みは「多汗症」の可能性があります。
市販のデオドラントや制汗剤で対処されている方も多いですが、多汗症は皮膚科で治療できる疾患です。近年は保険適用の治療薬も増え、以前よりも治療の選択肢が広がっています。
本記事では、皮膚科専門医の視点から、多汗症の原因・診断・治療法までわかりやすく解説します。
多汗症とは
多汗症とは、体温調節に必要な量を超えて過剰に汗が出る状態を指します。
汗は主に「エクリン汗腺」から分泌され、体温調節に重要な役割を担っています。しかし、多汗症ではこの発汗が過剰になります。
多汗症の原因
原発性多汗症
明らかな原因がないタイプで、最も多い多汗症です。
- 交感神経の過剰な働き
- 家族歴(遺伝的要因)
- 思春期から発症することが多い
特に「脇・手のひら・足の裏・顔」に左右対称に発症するのが特徴です。
続発性多汗症(原因があるタイプ)
以下のような病気や要因が関与します。
- 甲状腺機能亢進症
- 糖尿病
- 更年期障害
- 感染症(結核など)
- 悪性腫瘍
- 薬剤(抗うつ薬など)
全身に大量の汗が出る場合は、内科的な疾患の可能性もあるため注意が必要です。
多汗症の分類
多汗症は大きく以下の2つに分けられます。
- 全身性多汗症:全身に汗をかく
- 局所性多汗症:脇・手・足・顔など一部のみ
さらに、
- 原発性(原因不明)
- 続発性(原因あり)
に分類されます。
多汗症の頻度
日本の報告では、原発性局所多汗症の有病率は以下の通りです。
- ワキ:5.9%
- 頭部・顔:3.6%
- 手のひら:2.9%
- 足の裏:2.3%
多汗症は非常に一般的な疾患でありながら、未受診の方が多いのが現状です。
多汗症の重症度(HDSS)
重症度評価には「HDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)」が用いられます。
- 気にならない
- 我慢できるが時々支障あり
- 我慢できず頻繁に支障あり
- 常に支障あり
HDSS3以上は治療が必要です。
部位別の多汗症
脇汗(腋窩多汗症)

思春期から発症しやすく、衣類の汗ジミの原因になります。
治療
- 抗コリン外用(ラピフォート・エクロック)
- 塩化アルミニウム(20%)
- ワキボトックス注射
- 内服薬(プロバンサイン・漢方薬)
手汗・手のひら多汗症(手掌多汗症)

手のひらにストレスや緊張がかかったときに大量の発汗がみられる症状です。小学生くらいから自覚される方が多く、重症な方はしたたり落ちる程の汗が出て、テスト用紙が濡れてしまう方もいます。
治療
- アポハイドローション
- 塩化アルミニウム(20~50%)
- 手のひらボトックス注射
- イオントフォレーシス
- 内服薬(プロバンサイン・漢方薬)
- 交感神経遮断手術(重症例)
足汗(足底多汗症)

足の裏に多く汗をかくことで、汗が多いために皮膚がふやけやすく、また菌も増えやすい環境になるため水虫(白癬)、ウイルス性イボ、細菌感染のリスクが高まります。
治療
- 塩化アルミニウム(20~50%)
- 足裏ボトックス注射
- 内服薬(プロバンサイン・漢方薬)
- イオントフォレーシス
顔・頭皮の多汗症(頭部・顔面多汗症)

男性に多く、耳上から側頭部・前頭部に流れ落ちるほどの大量の発汗があります。ストレスや、熱い食べ物や飲み物がきっかけとなります。
治療
- 塩化アルミニウム(20%)
- 頭皮・顔面ボトックス注射
- 内服薬(プロバンサイン・漢方薬)
多汗症の治療法
抗コリン外用薬(多汗症の第一選択治療)
抗コリン外用薬は、エクリン汗腺に作用して発汗を抑える多汗症の基本治療(第一選択)です。
脇汗(腋窩多汗症)や手汗(手掌多汗症)に対して高い効果があり、現在は保険適用の治療薬も複数登場しています。
1日1回の外用で効果が持続し、日常生活への影響を大きく改善できる治療法です。
効果と特徴
- 発汗の原因となる神経伝達をブロックし、汗の分泌を抑制
- 使用当日から効果を実感することも多い
- 継続使用で安定した効果が得られる
使用方法
- 1日1回(就寝前)の使用が基本
- 清潔な皮膚に塗布し、乾燥させる
注意点・副作用
- 目に入ると散瞳・かすみ目の原因となるため注意
- 緑内障・前立腺肥大の方は使用できない場合あり
- 中止すると再発するため継続使用が重要
ラピフォートワイプ(脇汗治療・保険適用)

ラピフォートワイプは、原発性腋窩多汗症(ワキ汗)に対する保険適用の抗コリン外用薬です。
特徴
- 1日1回の使い切りワイプタイプ
- 両脇に塗布するだけで簡単に使用可能
- 衛生的で持ち運びにも便利
対象年齢
- 9歳以上
費用(目安)
- 薬価:1包 250.6円
- 3割負担:約2,105円/月(28日分)
初めての多汗症治療として選ばれることが多い標準治療薬です。
エクロックゲル(脇汗治療・保険適用)

エクロックゲルは、原発性腋窩多汗症に対するロールオンタイプの外用薬で、日常使いしやすいのが特徴です。
特徴
- 1日1回のロールオン塗布
- 市販デオドラントに近い使用感で継続しやすい
- ベタつきにくく、日中の使用にも適する
対象年齢
- 12歳以上
費用(目安)
- 薬価:1g 241.3円
- 3割負担:約2,896円/月(40g/28日分)
使用感の良さから継続率が高い治療薬です。
アポハイドローション(手汗治療・保険適用)

アポハイドローションは、原発性手掌多汗症(手汗)に特化した保険適用外用薬です。
特徴
- 1日1回、就寝前に使用
- 両手に約5プッシュ塗布
- サラッとしたローションでベタつきが少ない
対象年齢
- 12歳以上
費用(目安)
- 薬価:1g 543.7円
- 3割負担:約2,819円/月(28日分 18ml/17.28g)
注意点
- 足の裏は角質が厚く、効果が出にくい場合あり
手汗に対する第一選択薬として推奨される治療です。
塩化アルミニウム液(多汗症の基本外用治療)
塩化アルミニウム液は、脇汗・手汗・足汗・顔汗など幅広い部位に使用できる多汗症の標準的治療薬です。
古くから使用されている治療法であり、現在も第一選択肢のひとつとして推奨されています。
作用機序(なぜ汗が止まるのか?)
塩化アルミニウムは、汗の出口(汗管)を物理的に閉塞させることで発汗を抑制します。
継続使用により汗腺の働きが抑えられ、発汗量が徐々に減少します。
神経を抑える抗コリン薬とは異なり、「汗の通り道をブロックする」治療です。
適応部位
- ワキ(腋窩多汗症)
- 手のひら(手掌多汗症)
- 足の裏(足底多汗症)
- 顔面・額
- 頭皮(低濃度)
濃度を調整することで、部位ごとに適切な治療が可能です。
使用方法
- 基本は1日1回(就寝前)
- 清潔で乾いた皮膚に塗布
- 手のひら・足の裏はラップや手袋で密封すると効果向上
治療スケジュール
- 初期:毎日使用
- 効果が安定後:週1~2回へ減量
使用回数を減らしても効果が持続しやすいのが特徴です。
副作用・注意点
- かぶれ(接触皮膚炎)
- かゆみ・ヒリヒリ感
対策として:
- 濃度調整(10~50%)
- ワセリンで周囲保護
- かゆみや赤みなど肌炎症時は一時中止
刺激対策を行えば継続可能なケースがほとんどです。
こんな方におすすめ
- 外用薬から治療を始めたい方
- 保険適用薬で効果不十分な方
- 手汗・足汗が強い方
プロバンサイン(内服治療・保険適用)
プロバンサインとは?
プロバンサインは、全身の発汗を抑える抗コリン内服薬で、多汗症に保険適用があります。
外用薬で十分な効果が得られない場合や、全身性多汗症・緊張時の発汗対策として使用されます。
作用機序
発汗を促す神経伝達を抑制し、全身の汗の分泌を低下させます。
服用方法
- 1日3~4回の定期内服
- 緊張する場面の約1時間前に頓服も可能
- 試験
- 面接
- プレゼン
- 結婚式など
「ここぞ」という場面の汗対策として非常に有効です。
費用(目安)
- 薬価:1錠 6.1円
- 3割負担:約154円/月(1日3回×28日)
多汗症治療の中でも費用負担が少ない選択肢です。
副作用・注意点
- 口渇(最も多い)
- 便秘
- 眠気
- 排尿困難
※以下の方は使用できない場合があります:
- 緑内障
- 前立腺肥大
医師の診察のもと適切に使用することが重要です。
漢方薬(多汗症の体質改善治療・保険適用)
多汗症は外用薬だけでなく、体質から改善する治療として漢方薬も有効です。
特に「疲れやすい」「体力がない」「ほてりやすい」などの体質が関与する多汗症では、内側からのアプローチが効果的です。
保険適用で処方可能な漢方薬もあり、継続しやすい治療法です。
漢方治療の特徴
- 体質(証)に合わせて処方するオーダーメイド治療
- 発汗だけでなく、体調全体を改善
- 外用薬や内服薬との併用も可能
「根本的に体質から改善したい方」に適しています。
多汗症に使用される主な漢方薬
- 防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)ツムラ20番:疲れやすく、水太りタイプ、足がむくみやすい方
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)ツムラ41番:全身の気力低下、疲れやすい方
- 白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)ツムラ34番:顔が赤くなりやすい、ほてりやすい、口が乾く方
ボトックス注射(即効性のある多汗症治療)
ボトックス注射は、発汗を抑える効果が高く、即効性のある多汗症治療です。
美容医療ではシワ治療として知られていますが、多汗症に対しても非常に有効です。
ボトックスの作用
ボツリヌストキシンが神経の働きを抑制し、汗を出す指令(アセチルコリン)をブロックすることで発汗を抑制します。
効果・持続期間
- 効果発現:数日〜1週間
- 持続期間:約3〜6ヶ月
定期的に継続することで、効果の持続期間が延びる傾向があります。
適応部位
- ワキ(腋窩多汗症)
- 手のひら
- 足の裏
- 顔・額・頭皮
ワキ汗治療では最も満足度の高い治療の一つです。
痛み対策
- 手のひら・足の裏は痛みが出やすい部位
- 麻酔クリームや冷却で軽減可能
痛みが不安な方も安心して受けられます。
こんな方におすすめ
- すぐに汗を止めたい
- 大事なイベント(結婚式・面接など)を控えている
- 外用薬で効果が不十分
注意点
- 効果は永久ではなく定期的な施術が必要
- 内出血や軽度の筋力低下が起こることがある
イオントフォレーシス
微弱な電流を使って電気分解を起こし、生じた水素イオンにより発汗を抑える治療です。
- 手足の多汗症に有効
- 定期的な通院が必要
- 自宅で行う器具も市販されている
交感神経遮断手術
交感神経遮断手術(ETS手術)は、胸腔鏡を用いて手の発汗を司る神経を遮断する、日帰りも可能な根本治療です。重症例に行います。
※注意点:他の部位の汗が増えてしまうことがあります(代償性発汗)
多汗症は保険適用される?
多くの治療が保険適用です。
| 治療 | 保険 |
| 外用薬 | ○ |
| 内服 | ○ |
| 漢方 | ○ |
市販制汗剤との違い
| 市販 | 医療 |
| ニオイ対策中心 | 発汗抑制 |
| 効果が限定的 | 明確な治療効果 |
根本的に汗を減らしたい場合は医療治療が有効です。
子どもの多汗症
お子様の多汗症も治療可能です。テスト・試験など日常に差し障りがある場合は早めの治療をおすすめしています。
- 小学生から発症することが多い
- 保険適用治療あり
- 早期介入でQOL改善
よくある質問
多汗症は自然に治りますか?
原発性多汗症は自然に完全に治ることは少なく、年齢とともに軽快することはありますが、多くは持続します。症状が生活に支障をきたす場合は治療をおすすめします。
多汗症は何科を受診すればいいですか?
基本的には皮膚科を受診します。全身に大量の汗が出る場合は内科的な病気が隠れている可能性もあるため、必要に応じて内科と連携して診断を行います。
多汗症の治し方は?
主な治療法は以下の通りです。
- 外用薬(抗コリン薬、塩化アルミニウム)
- 内服薬(プロバンサイン)
- ボトックス注射
- イオントフォレーシス
- 手術(重症例)
症状や部位に応じて最適な治療を選択します。
多汗症は保険適用されますか?
はい、多くの治療が保険適用です。
外用薬・内服薬・漢方は保険適用となる場合が多く、比較的低コストで治療可能です。
市販の制汗剤と病院の治療の違いは?
市販製品は主に「ニオイ対策」が中心ですが、医療では「発汗そのものを抑える治療」が可能です。根本的に汗を減らしたい場合は医療機関での治療が有効です。
手汗はどのように治療しますか?
手汗には以下の治療が有効です。
・アポハイドローション
・塩化アルミニウム
・イオントフォレーシス
・ボトックス注射
重症度に応じて治療を選択します。
ワキ汗(腋窩多汗症)は治せますか?
はい、治療可能です。抗コリン外用薬やボトックス注射により高い改善効果が期待できます。特にボトックスは即効性があり満足度の高い治療です。
手汗で紙が濡れるのは病気ですか?
日常生活に支障が出るほどの手汗は「手掌多汗症」の可能性があります。アポハイドローションなど様々な保険適用のお薬があり、必要に応じて治療を行います。
足汗が多いと水虫になりやすいですか?
はい。足汗が多いと湿った環境になり、水虫(白癬)菌が増殖しやすくなるため、水虫のリスクが高まります。多汗症の治療が予防にもつながります。
顔汗・頭皮の汗は治療できますか?
はい、可能です。塩化アルミニウム外用やボトックス注射、内服薬で改善が期待できます。特にボトックスは効果が高い治療です。
子どもの多汗症も治療できますか?
はい、可能です。小学生から発症することが多く、保険適用の外用薬もあります。学校生活に支障がある場合は早期治療をおすすめします。
多汗症は遺伝しますか?
はい、原発性多汗症では家族歴がみられることがあり、遺伝的要因が関与していると考えられています。
緊張すると汗が増えるのは多汗症ですか?
緊張時に過剰な発汗がある場合、多汗症の一種の可能性があります。プロバンサインなどの内服薬でコントロールできる場合があります。
多汗症の薬はいつから効きますか?
抗コリン外用薬は早ければ使用当日から効果を実感することがあります。継続使用により効果が安定します。
ボトックス注射はどれくらい持ちますか?
通常3〜6ヶ月程度効果が持続します。継続することで持続期間が長くなる傾向があります。
多汗症の治療は一生続ける必要がありますか?
症状の程度によりますが、外用薬は継続使用が基本です。ボトックスは定期的に行うことで良好な状態を維持できます。
塩化アルミニウムは安全ですか?
適切な濃度で使用すれば安全性は高い治療です。ただし、かぶれや刺激が出ることがあるため、濃度調整や保湿で対策します。
多汗症は放置しても問題ありませんか?
命に関わることは少ないですが、生活の質(QOL)を大きく低下させることがあります。また、皮膚感染症のリスクが高まる場合もあります。
汗が急に増えた場合はどうすればいいですか?
急に全身の汗が増えた場合は、甲状腺疾患や感染症などの可能性もあるため、医療機関での検査をおすすめします。
多汗症は完治しますか?
根本的に完全に治るケースは限られますが、適切な治療により「ほとんど気にならない状態」までコントロールすることは十分可能です。
まとめ
多汗症は適切な診断と治療で改善可能な疾患です。
当院では、外用薬・内服・ボトックスなど幅広い治療をご用意しております。
症状やライフスタイルに合わせて最適な治療をご提案いたします。
汗でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
【参考文献】
・日本皮膚科学会 原発性局所多汗症診療ガイドライン
・Fujimoto T, Inose Y, Nakamura H, Kikukawa Y. Questionnaire-based epidemiological survey of primary focal hyperhidrosis and survey on current medical management of primary axillary hyperhidrosis in Japan. Arch Dermatol Res. 2023 Apr;315(3):409-417. PMID: 35768620.
・Hornberger J, Grimes K, Naumann M, Glaser DA, Lowe NJ, Naver H, Ahn S, Stolman LP; Multi-Specialty Working Group on the Recognition, Diagnosis, and Treatment of Primary Focal Hyperhidrosis. Recognition, diagnosis, and treatment of primary focal hyperhidrosis. J Am Acad Dermatol. 2004 Aug;51(2):274-86. PMID: 15280848.
・American Academy of Dermatology Association Hyperhidrosis: Diagnosis and treatment
・British Association of Dermatologists Hyperhidrosis



